学生プロレスに薔薇で作った杯を
今朝起きた時から湧き上がる猛烈なプロレス熱に突き動かされて、
この歳になってわざわざ学生プロレスを観るために大学の学園祭に出かけていった。
学生プロレスなめちゃいかん。
絶妙なゆるさは、秋晴れの空と相まって心身共に癒される。
と偉そうなことをいいながらも、メインイベントで校舎の二階相当の高さから、机に寝かせた相手へのボディプレスが決まった瞬間、不覚にも涙を流してしまった。
二階からのボディプレスは、珍しい事は珍しいが涙をこぼす程のことではない。
僕が涙を流したのは、ボディプレスを敢行した選手のかっこよさにである。
校舎の二階部分からせり出した踊り場に立った彼の顔は恐怖に引きつっていた。
二階ダイブをやろうと決めていたけど、いざ立ってみると想像していたよりも高かったのだろう。
失敗すれば、下は剥き出しのコンクリートである。
腰が退けて中途半端な落ち方をすれば、大怪我の可能性もある。
かといって今更、跳ばないわけにも行かない。
彼は二度、三度呼吸を整えてから、一瞬間目を閉じた。
そして静かに目を開けて、雄たけびをあげた。
言葉にならない咆哮は、抜けるような青空に吸い込まれていく。
それから、彼はとても美しいフォームで跳び出した。
机が真っ二つに割れる音とそれに続いて沸き起こった観声が、今も耳について離れない。
人間が己に打ち克つ瞬間は、涙が出るくらいに美しい。
静から動に動く一瞬に込められた心の揺れ動きを表現できるプロレスは、下手な映画や小説なんかよりずっと高尚だ。
プロレスの感動を受信できないボンクラ達は、永遠に腰を振って快楽に溺れているがいい。