星になれたら

思い出を重ねずには聴けない曲が誰にでもあるだろう。
ミスターチルドレンの『星になれたら』が僕のそれにあたる。


それはもう5年以上も前のことになる。


なぜそこにいて、そこで何をしていたのかは、いまいち覚えていない。
リハーサルの合間だっただろうか。
それとも本番が終わった後だっただろうか。
そもそもどうしてギターなんかがあったのだろうか。


確かに覚えているのは、一人の男が舞台の縁に腰掛けてギターを弾いていたことだけだ。


五年以上経った今でも、それだけははっきりと覚えている。


彼はミスターチルドレンの『星になれたら』を唄っていた。


その唄はお世辞にも上手いとは言えなかった。
でも、ゲテモノ以外の言葉では形容できない容姿をした彼の唄にしては、あまりにもまっすぐで誠実な唄だった。


その唄を聴いて、19歳の僕は何を思ったのだろう。


すっかり記憶が抜け落ちてしまっていて、どうにも思い出せない。


ただ、『星になれたら』を耳にすると、あの時の光景が頭によみがえる。


今日ラジオから流れてきた『星になれたら』を聴いて、またあの時のことを思い出した。
そして、またひとつの記憶が抜け落ちた。


僕のこの思い出は本当にあったことなのだろうか。
それとも思春期の僕が作り出した寓話なのだろうか。


すべての事実は記憶の向こう側であやふやな靄に隠されてしまったが、『星になれたら』を聴くと19歳の秋の一場面を思い出すのは揺るぐ事のない現実だ。