探偵ナイトスクープ

最近お気に入りのサウナに入っていた。


寒いからこそ無理して汗をかくという、
文明的かつ中年的な発想です。


サウナのテレビで、探偵ナイトスクープがやっていた。


関西に生まれながら、僕はどうもこの番組に夢中にならなかった。
そういえば昔、実家の近くにロケが来たことがあった。
田舎の住宅街のこと、恐ろしいほどの騒ぎになったらしいが、僕は興味がなかったので、家でドラマの再放送にかじりついていた。


今日の最初の依頼は、87歳の元南満州鉄道の運転手が再びSLを運転したいというものだった。
ナイトスクープに興味はなくとも、隠れ鉄道ファンを自認する僕だから、汗まみれになりながらテレビ画面に食いついた。


そして公衆の面前で、すっぽんぽんで、汗まみれで泣いた。


87歳のおじいさんは、60年ぶりに機関車を目の前にして、無邪気な笑顔を浮かべた。


子供のような笑顔だとか初恋の相手に再会した時のようなはにかんだ笑顔だとか、そんな陳腐な例えでは到底勝てる事の出来ない、
厳しい時代、険しい場所で、それでも希望を捨てずに生きてきた人間だからこそ出来る、とても誇り高い尊い笑顔だった。


そして、おじいさんは遠い時代に置いてきた思い出を拾い上げるかのように、機関車のパーツをやさしく触る。


いよいよ、操縦桿に乗り込むと、さっきまで杖をついていたのがウソのように、どっしり構えて釜に石炭をくべていく。
煌々と爆ぜる炎が逆光になって、おじいさんの細い腕の影が浮かびあがらせた。
しかし、その動作は力強く、これまでに目にしたどんな芸術よりも人間の美しさを感じさせた。


機関車は汽笛を鳴らしてゆっくりと動き出す。
たった200メートル程度の直線だけのレール。


おじいさんはその200メートルの間に、これまでの人生の何を思い出し、誰と言葉を交わしたのだろう。


「向こうに逝ったら先に死んだ同僚に今日のことを話します」
そうおじいさんが言った時、僕は自分が泣いていることに気付いた。


60年後僕は、あのおじいさんの100分の1でも、人として輝いている事が出来るだろうか。
輝きといえば仰々しいネオンの光しか知らない僕らの世代では難しいのかもしれない。


南満州の夜空に浮かぶ星は、さぞかし綺麗に輝いていた事だろう。