本編

昔から人と別れるのが苦手だった。
これで、おしまいっていわれても実感がわかないんだよね。
それに気合入れて、さあ悔いのない別れ方するぞっていわれると照れちゃってダメなんだよ。
そんな中二の春だったね。
小学校の頃から、仲の良かった友達が突然引っ越す事になった。
新しく出来るニュータウンに念願の家を買ったかららしい。
今まで借家だったからよかったべなというようなお話ですよ。
まあでも、そのニュータウンの計画は大コケしちゃったんだけどね。
山の中の集落どまりまでしか発展しなかったんだ。
まあ、それはまた別の話だからいいんだけど。
とりあえず転校するってことなので、クラスでお別れ会が催された。
今思うと、中学生の割には幼いことやってるよね。
でもあの頃あの街の中学生は、そんなもんだったんだよ。
お別れ会って何やったんだろう?
色紙は渡したね。
花も渡した。
出し物はさすがになかったかな。
あっ、あったわ。
合唱コンクールの曲をみんなで歌う。
おー、いかさねえ出し物だな。
後は、一人づつ挨拶ね。
まあ、“向こうに行っても友達一杯作ってがんばれよ。また遊ぼうね。”的な無難極まりない挨拶に終始するんだけどね。
で、僕の順番が回ってきたんだよ。
クラス中が、僕らが仲いいのを知ってるから何かしら期待感が走ってるんだよ。
“なんか気の利いたこと言えよ。”
そういう空気が教室を包み込んでいた。
僕は勇気を出せずに、飛びきり無難な挨拶をかましてしまった。
ポケットにはプレゼントが入っていた。
これでおしまい。
お別れ会の後、話しはしたけどタイミングを失ったプレゼントがポケットから出ることはなかった。
今でも学生服のポケットに入っていればドラマチックなんだけど、どっかにいってしまった。
そんなもんだよ。
その後、一切連絡が途絶えていた彼と大学で偶然再会した。
でもあの頃のようになることはなく、どっかよそよそしいまま気づけばまた疎遠になっていった。
そんなもんだよ。
おしまい。